製作年 2011年
製作国 米
原題 SOURCE CODE
時間 94分
監督 ダンカン・ジョーンズ

「きっとうまくいく」
スティーヴンス(ジェイク・ギレンホール)が選んだたった一つの希望。
それは、軍人としてこの特殊な「プログラム」に身を捧げることでもなく、200万人のシカゴ市民を救うことでもなく、ただひたすら、「これからを生きる」ということだった。
序盤から、あれほど父親と話すことにこだわっていた理由。
自分の置かれた事情が分かっても、何とか話をしたいと、「ミッション」と並行して連絡を取ろうと方法を探る姿が、どうしようもない「現実」の悲しみをひしひしと伝えてくる。
二度と戻ることは出来ないだろう「現実」。それでも。
声だけの出演だったスティーヴンスのお父さんに泣かされた。
「月に囚われた男」ではケヴィン・スペイシーの言葉に涙が出たけど、姿は見えないのに大きな意味を持つ存在の重さがとても美しい。
「ミッション」とは関係なく、スティーブンスにとってはどうしても遂行したい願いだった。
もう会えない、自分はもう上半身しかない姿で脳も開けられて、「プログラム」の中でしか存在出来ない、そういう現実が分かれば分かるほど、それでも諦めずに逆にこの状況を利用して父親と話をしたいと願う彼の気持ちが、苦しいほど伝わってきてつらかった。
ある意味、この状況だからこそ、スティーブンスだからこそ、出来たことなんだけどね。他の戦死者にはあり得なかった「特権」。
こんな彼の気持ちを一切理解しようとしないラトリッジ博士(ジェフリー・ライト)が、いっそ清々しいくらい憎たらしくて良かった。スティーブンスをあくまで「プログラムの適用者」としかみることの出来ない姿は、まさに軍人を使い捨てにする国の象徴。
こんな彼に疑問を感じ、反発し、終盤、スティーブンスとの「約束」を守ったコリーン・グッドウィン(ヴェラ・ファーミガ)の潔さがまた素晴らしかった。
スティーブンスの「願い」を叶えることは、すなわち「本当の死」が彼に訪れることだと分かっていても、「ミッション」を繰り返す中で変化していき、より人 間の「素の姿」に近づいていくスティーブンスに共感することは観ている私も同じで、だからこそ、そのスイッチを押す側に立つつらさ、せつなさが痛いほど分 かる。
「プログラム」の特性を逆に利用した、「8分経っても戻らない」という選択。その意味をよく分かっているグッドウィンだからこその選択。せつない。
「生きる」ことの意味。
「死者の最後の8分間を体験する」という「プログラム」がもたらしたものは、国を救うことではなく、人間が本来持つ「生への希望」だった。
訳も分からないまま何度も何度も「過去」に戻され、「アップデート」を重ねていき、「ニューバージョンだからさ」と言い切る頃には、スティーブンスの中には葛藤も苦しみもない。
こんな異常な状況に適応出来たのは、やはり父親の存在があり、また、本当なら出会うはずのなかったクリスティーナ・ウォーレン(ミシェル・モナハン)との時間の中で、自分が生きるべき道を見出そうとしたから。
クリスティーナ、当然ながら何回も同じような演技を繰り返し、支離滅裂なショーン(スティーブンスの意識が入り込んだ男)の行動の困惑したり怒ったり、そういう普通の姿が良かったよなぁ。
「お茶に誘われるのを待ってたの」なんて、今のスティーブンスには程遠い言葉なんだけどなぁ。
「過去」と「現実」を行ったり来たり、たった8分間を繰り返す中で何とか「ミッション」も遂行するんだけど、観終わってみるとこっちはもうどうでもいいというか・・・。
爆破テロを企てた犯人デレク・フロスト(マイケル・アーデン)を確保してからが、本当のストーリーなんじゃなかろうか。
あのコメディアンが皆を笑わせているところでストップになるシーンで、我慢出来ずに泣いた。
人を笑わせるのは人の笑顔なんだよネ。
「きっとうまくいく」
スティーブンスの想いは、グッドウィルにも届いた。ちゃんと。
ダンカン・ジョーンズ監督、2009年の「月に囚われた男」が長編映画としての監督デビュー作品で、他を知らないもんだからどうしても引き合いに出してしまうんだけど、この人は「喪失」の描き方が秀逸なんだと思う。
「月に囚われた男」では、事故って気を失って目が覚めたら自分と同じ人間がうじゃうじゃいる、というオカルトなのかミステリーなのかよく分からん状況で混 乱させておいて、ラストはアイデンティティの救済だもんな。これはサム・ロックウェルのほぼ一人芝居がすんごい良かった。
「既に失われた肉体」というモチーフ。「SF」「サスペンス」というだけでくくれないのは、そこに深い「意識」の存在が織り込まれているから。
あと、深読みしすぎなんだろうけど、いろんな意味で皮肉がハンパないよネ両方とも・・・。
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