製作年 2010年
製作国 韓国
時間 119分
監督 イ・ジョンボム
R-15

とにかくもう、ウォンビンが安藤政信に見えて仕方なかった。

「隣の家のおじさん」という自己紹介では済まされないだろう派手なアクションが楽しかった。
ナイフを使う時だけ大ぶりな動きになるところが個人的にお気に入り。
銃も使うけど肉弾戦でも敵をぱきぱき倒していくウォンビンの素早い身のこなしに感嘆する。敵の胸やら手首やらにざくざくナイフを刺す時も表情が変わらないんだよね。
ずっと一人で少しずつ敵のマンソク兄弟を追いつめていく姿は「昔特殊部隊に所属していた」という過去のおかげで違和感もないんだけど、ひたすらさらわれた ソミの無事を願うブレない気持ちが、ラストまでほとんど笑顔も見せない無表情で冷徹な顔と対照的なキレのあるアクションでひしひしと伝わる。
・・・・だからこそ、ラストはもっとこう、滅茶苦茶にして欲しかったなぁ。そんなあっさり始末しちゃったら勿体ないよなぁ、ほんと。
ウォンビンの迫力に、「悪魔を見た」ばりのゴアを期待してしまった。
そんなことを言うと、一緒に観た夫に「だからR-15ながやろ。あれ以上やったら観られない」としたり顔で頷かれた。
マンソク兄弟と行動を共にしていたタナヨン・ウォンタラクンの存在もちょっと中途半端で残念。ウォンビンに負けないくらい芯の強さがあって、トイレでの激 闘の後、クラブのフロアで人ごみを挟んで睨みあうシーンなんか、どっちが主役か分からないほどかっこいい。
もっとウォンビンと会話して欲しかったなぁ。ただお互い敵として対峙するだけだったもんなぁ。
この、ソミ役のキム・セロンちゃんがとっても可愛い。おじさん(ウォンビン)を好きでいたい、だから嫌われてもいいけど自分は嫌いにならない、と泣きながらさよならするシーンにはウォンビンでなくても涙を誘われる。
お母さんはヤク中で、自分のこともあまり構ってくれない。生まれる前から「ごみ箱」と言われ、学校でもいじめられる。かばんを盗もうとしたらバレて散々ぶ たれる。とっても可哀相な日常を送っているんだけど、ウォンビンにだけは笑顔を見せる。何かと構って欲しいんだけど、ウォンビンは何故か冷たくあしらうば かりで、助けてもらいたくてお父さんと指差しても無視して立ち去られる。
それでも、おじさんが好きだという気持ちだけは捨てられず、拗ねることも出来ず、ただ傷ついて離れていくしかないソミの悲しさ。お金の代わりに差し出されたダーク・ナイトのカードが何ともせつない。
ネイルが上手で、クラスでも唯一皆に存在をアピール出来るソミだけの特技だったんだろうけど、こっそりウォンビンの指にも塗るんだよね。似つかわしくない、黄色に黒で顔文字を描いて。
この笑顔が剥がれ、消えかける頃にはウォンビンの手は血で真っ赤に染まっているんだけど、離れ離れになってもそこに宿るソミの存在感がとても重たくて泣ける。

マンソク兄弟はそらもう気持ちいいくらい頭が悪くて嫌な奴で、こういう単純で徹底した悪役がいるから韓国映画って好きなんだけど、この兄貴役(キム・ヒウォン)、案外ガンホ兄貴が演じても良かったかも・・・と思ってしまった。憎らしさが倍増しそう orz
何処までもただ悪い、だから全力でウォンビンを応援することが出来る。でも、ジレンマがない分、あっさりした殺し方には不満が残った。
あと、キム・テフン演じる刑事さんも個性が強くて良かった。このリーダーが率いる麻薬班のメンバーは皆がそれぞれ面白くて、序盤はどっちが敵なんだか一瞬 混乱するくらい無茶くちゃなんだけど、「チェイサー」と違いメンツをかなぐり捨ててウォンビンやマンソク兄弟を追いかける姿に感じる正義感は気持ちいい。
「お前は明日を生きる。俺は今日を生きたい。お前は今日を生きる奴に殺される」
「今のお前は子どもたちに謝るべきだった」
「金歯は買う。それ以外は噛みちぎってやる」
という、ウォンビンの怒りに満ちた低い声と相手を見据える暗い光の宿る瞳。ひくりと痙攣する唇。最後まで感情を爆発させるシーンのなかったウォンビン、この抑えた演技がひりひりするようなはかなさと強さを感じさせて、とっても印象に残った。良かった。
序盤は猫背でパーカーかぶってめっさあやしげなおっさんだったのに、黒スーツに身を固めて自ら髪を切ってからは人が変わったように突っ走るウォンビン、脱げば細マッチョなんだけど服着てたら華奢なもんだから、余計に痛々しい。
正直、ラストはもうちょっと余韻を残して欲しかった。あの駄菓子屋のおっちゃんすんごい好きだけど、そこにソミを預けようとするウォンビンの最後の優しさもいいけど、うーん、「その後」が知りたかったなぁ・・・。
ソミの母親ヒョジョンは殺され、本当は二人とも救いたかった、せめてソミだけは、という、自身も子どもを身ごもっていた愛妻を殺された過去を抱えるウォンビンの、絶望感から逃れられない自分との闘いを描いたハードボイルド。
「悪魔を見た」とは違う「再生」を味わった。
ウォンビンいいなウォンビン。
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