淋しさをこじらせて「様子うかがい」に走る男

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ある男性の話。

好きな女性がいて、順調にデートも重ねて良い雰囲気だったはずなのに、あるとき些細な行き違いから距離が生まれてしまった。

女性からの連絡は次第に少なくなり、こちらからLINEを送っても返ってくるのは素っ気ない言葉ばかり。

「もしかして、俺との関係を変えようとしている? 勘違いだったらごめんね」と遠まわしに女性の気持ちを尋ねるも、「自分の好きなようにすれば」と意図しない方向に取られてしまい、欲しい言葉はもらえなかった。

それっきり、女性とは音信不通になった。

原因となった心のすれ違いは、お互いに言葉が足りなかっただけのこと。

男性は女性のことが変わらず好きだったけれど、女性から「温度差があるもんね」と言われても「俺にはわからない」としか答えられずにいた。
それが彼の”実感”であり、温度差があると口にした彼女の気持ちより、そんなことを言われたショックのほうに気を取られ、

「どうして彼女にそう思わせたのか」
「彼女は自分の何を見てそう感じたのか」

をまったく考えていなかった。

この男性は、とにかく人の気持ちを想像することができなくて、常に自分の考えが先行してしまう。
自分の言葉や振る舞いが相手の気持ちにどう届くかがわからず、責められて初めて「またしくじった」と知る。

それはそれでかわいそうだなと思う。

で、この男性は今回もまた、黙り込むことを決めた。彼女の気持ちが自分から離れたなら、もう追いかけても仕方ない。いつものように、ぶつかることを避けて自分の心を保つことに精一杯だった。

女性からの連絡を待ちわびながら。

あるとき、女性のほうから以前あげたものを返してほしいとLINEがきた。
それは女性が男性のために贈ったものだったが、男性はそれを彼女がいる場で使うのが嫌で、別のものを用意していて、それを目にした女性からの連絡だった。

ここにもすれ違いがある。

どんな気持ちでそれを女性が贈ってくれたか、そんなことはもう二の次。「関係が終わったのに使うのはおかしい」とひとりで完結し、わざわざ別のものを買って女性の気持ちを過去のものにしたのが男性だった。

女性からすれば、男性にこそ使ってほしいものだったんだけど、彼にはわからない。

で、それを返してほしいとLINEで言われ、ひとこと「わかった」とだけ返信した。

短文で終わるのは、淋しさの現れ。わざわざ素っ気なさを演出しないと、そして女性に「あなたのことはもう何とも思っていないですよ」と伝えないと、まともに対応することなんてできないのだ。

話を聞きながら、つくづくと難儀な男だな、と思った。

で。
その男性は、次の日にその女性の家に来たそうだ。朝早くから。一本の連絡もなしに。

今から朝ごはんを食べようとしていた女性は、突然の来訪に面食らった。

確か、返すのは次にみんなで会ったときでいいと、そう伝えていたはずなのに。

連絡もなしに来られても、部屋は客を迎えられるような状態じゃない。着替えてもいなければメイクもしていない。

単純に迷惑だった。

だが、そんなことは男性には関係ない。そもそも、「自分が訪ねていくことが女性の迷惑になる」ことを、彼は考えつかない。
ただ、自分が行きたいから。
早く返したいから。
早く彼女の顔が見たいから。
早く会いたいから。

「あぁ、淋しさをこじらせすぎちゃって、ご機嫌うかがいに走ったんだねぇ」

と思わず笑ってしまったが、当の女性は

「非常識だよね。朝の8時から人の家に来るとかありえない」

とたいそうご立腹だった。

男性は必死だったのだろう。
久しぶりの連絡。その内容が、あげたものを返してほしいというネガティブなものでも、男性は「思い出してもらえた」ことのほうに気を取られる。
そして、またしても自分の感情が優先して突っ走ってしまう。

とにかく会えば何とかなるだろう。
まだ彼女は俺のことが好きなんだ。
会いたい。
会いたい。
また以前のようなラブラブな雰囲気に戻りたい。

だが、いざ会ってみれば家の中にも入れてもらえず、どうでもいい話を外でして終わり。

彼の期待はかなわずに終わる。
いつものように。

これが、きちんと連絡をして会いに行ったのであれば、事態はずいぶん違っていただろうなと思う。

彼女は以前にも「連絡もなしにうちに来られるのは迷惑」と男性にはっきり伝えていた。二度も。
それを破ってまで自分の淋しさを押し付けても、女性の気持ちは振り向かないのだ。

男性は、女性に対して「淋しかった」「会いたかった」「もう俺のことは嫌いになった?」という肝心なことはひとことも言わなかった。

ものを返すという用事にかこつけて会いに来て、先に女性の様子をうかがって、それを見てからじゃないと自分の気持ちなんて伝えられないのだ。

わかるけどねぇ。

結局、女性のほうは、「二度と彼には連絡しない」という気持ちをより一層強くして終わり。
男性は何も満たされないまま、また元の孤独へと戻るしかない。

淋しさをこじらせると、「様子うかがい」に走る男はいる。

素直になれないばかりに、非常識を押し通してでも自分の存在をアピールする。

でも、そんな心で女性が向き合ってくれるはずがないのだ。

つくづくともったいないなと思うけれど、男性側にも不安がある。
だって、俺ばかり好きだなんて、惨めじゃないか。好きだって伝えても、彼女から好かれていないんじゃ意味がないじゃないか。
こう決めつけて、心を開くことを諦めるのだ。

女性のほうは、決して彼のことが嫌いになったわけではない。
確かに「以前ほど好きではなくなった」けれど、関係が終わりになったとまでは思っていない。ただ、心のすれ違いに疲れてしまって少し距離を置いているだけ。

でも、それを伝えていない彼女も悪い。

曖昧なつながり。
グレーな関係。
これに耐えられない男性ほど、淋しさをこじらせると極端な行動に走る。

それが「まだあなたのことが好きでたまらないんだ」と伝えることになるとも知らず。

そして、そんな自分の気持ちをまっすぐに届くはずがない現実もわからず。

ふたりの関係は、また音信不通の状態に戻った。

難儀だなと思うけれど、ふたりともが心を開かない限り、前向きな関係を築くことは難しい。

「時間をかけることだね。彼のほうはあなたをずっと忘れないし、忘れるためにあれこれ抵抗してもいつまでもあなたからの連絡を待っているよ」

これが、ため息をつく彼女に向けた言葉だった。

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