付き合っている相手が既婚者だったり好きになるのはいつもサービス業の人だったり、「同じ目線になれない人」との恋愛を選ぶ人が欲しいのは、「自分は何もしなくていい」という安堵だ。
先日も不倫中の男性から話を聞いていたのだけど、相手への愛情を説く一方で
「でも、どうせ俺は何もできないから」
と何度も口にしていた。
「何もできないことはないでしょ。
離婚してほしいとか、正々堂々としたお付き合いがしたいって言えばいいでしょ」
と返すと
「それは相手の問題だから」
で終わる。
その通りだけど、じゃあいったい何に悩むのかが正直わからなかった。
「自分からは連絡できない(相手は配偶者と一緒にいるから)」
「向こうからの誘いを待つしかない」
「行ける場所も限られるし、ホテルに出入りするのも怖い」
うんうん、不倫ってそうだよね、と頷けるんだけど、そんなことは承知の上で肉体関係を持っているのであって、嫌ならやめるしかない。
離婚や自分との交際を選ぶかどうかは相手の問題、と言いながら、その窮屈な関係に甘んじているのは自分だよね?
不倫なんて歪んだ関係は、単純に楽しむか別れるか、「自分は何もできない」なんて言っても仕方ない。
その苦しみを私のような「言っても大丈夫な人」に吐き出して同情してほしい気持ちはしっかり受け止めるけど。
ここで調子を変えて言ってみる。
「状態を自分では変えられない恋愛って、つらいよね」
男性はぱっと私の顔を見て、首を振った。
「ほんとそう。
あなたの言う”努力”って、わかるんだけどなかなかできないよね」
不倫だから、と続けながら眉根を開いた。
30代なかばの彼は、これまでまともに女性とお付き合いをしたことがないらしく、いい雰囲気までいけてもそこから決定打を打てずにいつの間にか距離が開いていた、という終わりを繰り返していた。
内容を聞く限り、相手の行動を待ってそれに合わせるやり取りをしていて、「ああ、女性のほうは積極的に行動しないこの人に見切りをつけて去っていったんだな」と感じた。
でも、そんな自分について男性はおかしいと思っておらず、
「だって、どうすればいいかわからないし」
「相手に合わせていれば失敗しないでしょ?」
と言い切った。
それが原因で振られた、とはならないのだ。
いま不倫中の女性は友人で、「旦那が浮気して愛情がなくなった」からと男性を誘い、女性に好意を持っていた男性はそれに乗っかった状態だった。
「好きな人が既婚者って、つらくないの?」
これは不倫中の人に”してはいけない質問”で、それが前提で関係を持ったという指摘は相手を嫌な気持ちにさせ、その後の会話をダメにしてしまうので言わないのだけど、「つらいのが当たり前な恋愛」を安易に選ぶ人は、自分が何もできない状態をよしとする弱さと甘えが見えた。
「あちらが行動しない限り、自分は何もできない関係」
は、言い換えれば
「だから自分は何もしなくていい」
になる。
それって本来すごく不毛だよね、と言うとへそを曲げられるので避けるけど、こういう人が私に認めてほしいのは
「その関係のなかで選ばれる可能性」
なのだ。
不倫しているなんて普通はなかなか人に言えないし、取材の名目で会う私になら、相手への愛情も愛されている証も、「でも自分ではどうしようもないつらさ」も、何でも打ち明けられる。
不倫なんだからこちらは何も努力できないことを肯定してもらい、相手の「いつまでも自分を不倫相手に据え置く様子」には目をつむり、いかに二人が幸せな状態かを知らせる。
自分との時間に溺れる相手の姿を伝え、「いつか離婚して自分を選んでくれるよね?」と言いたいのは、見ていて伝わる。
選ばれない可能性が最初にあって、それを乗り越えて求められる自分を教えてほしいのだ。
だから「状態を自分では変えられない恋愛って、つらいよね」の言葉に安堵する。
相手の要望に応えることが愛情、と信じて疑わない男性は、その関係を変えるきっかけを自分が作ることを放棄していた。
「こんな自分でも愛される現実」がほしいのだ。
まっとうな感覚のある人なら、まず不倫関係は選ばない。
リスクの高さもそうだけど、「自分の思い通りにならない恋愛」など、最初に選択肢から外すのだ。
思い通りにならないっていうのは好き勝手できないことじゃなくて、積極的に愛情を伝えていく姿勢を止められる状態。
異性とまともに関わりたいと思うなら、対等でいられる独身者との恋愛を求めるのが一般的じゃないかな、と。
「自分では状態を変えられない恋愛」なんて、相手が主導権を握っている時点でいろいろ危ない。
相手の思惑ひとつで自分は切られる立場なのだ、と思えば、いわゆる「普通の恋愛」よりずっと不安定なつながりなのだ。
そこが見えない。
自分に自信がないから。
つながりを選ぶ側ではなく選ばれる側だと無意識に思い込んでいるから。
「自分では状態を変えられないんだ」と思っていれば、振られても仕方がないで済ませられるから。
退路を残しておきたいのかもね。
この男性に限らず、女性でも、「努力しなくていい関係」に甘んじながら実際は選ばれずに終わる恋愛にハマる人は多い。
もちろん当人は本気なのだし、それは応援したいと思うのだけど、私から見ると恋愛する場を間違えているって感じが消えない。
もったいないとかいう言葉こそ不毛だけど、今の現実を選んでいるのは自分自身なのだと、その覚悟だけはね、忘れないでほしいなと思う。
いずれ、答えは出る。
それが希望か破綻か、相手任せにしなくても「自分の意思で選べる」のもまた正解なのだ。
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