仕事柄、離婚調停中の女性とよく話す。
正確には「夫婦関係調整調停」というんだけど、話し合いと歩み寄りが前提のこれは、相手方(夫)の出方によってはまったく進まないなんてのも珍しくない。
たいていは月に一回開かれる調停だけど、相手の主張が変わらない、また頼んでおいた証拠を出してこないなど、嫌がらせのように進行を遅らせるケースもよく見る。
で、離婚したい側としては、本当に気が滅入るんだよね。
夫にはイライラするし調停委員から信じられないことを言われることもあるし、まさに「八方塞がり」になってお酒に走る女性も実際にいる。
自分では変えられない現実を目の当たりにすると、どこかでストレスを発散したくなって、調停(裁判)中だけどほかの男性と仲良くなることもあるだだろう。
40代のある女性の話。
調停中の彼女は、それを周囲に隠しながらある会に参加していた。
それは彼女の気晴らしのようなもので、
「どすっぴんだし冬はスウェットで行くなんて普通だった」
と、そこに来る男性の目をまったく意識していなかったそうだ。
もとより恋愛の場として見ていないので、装うことに力を入れないんだよね。
でも活動はしっかり行っていて、既婚未婚問わずに知り合いが増え、純粋にコミュニケーションを楽しんでいたという。
あるとき、ふとしたきっかけで一番仲良くなった既婚男性に現在調停中であることを打ち明けたら、その人は別の独身男性から彼女についてあれこれ訊かれていて、うっかり話してしまったと。
普通に考えてアカンことやと思うし、勝手にプライバシーを晒された彼女は落ち込んでいた。
ところが、彼女はその独身男性から直接声をかけられる。
「○○さんからあなたの話を聞いた。
悩んでいることや苦しいこともあると思う。
よかったら、僕が力になりたい」
要約するとこんな話をされて、彼女はポカンとしたそうだ。
「え、その人本当に大丈夫?」
まずそう訊いてしまったが、離婚調停中の女性に正面きってアプローチするって、いったいどんな気持ちなのかと不思議だった。
弱っているところにつけこむ、都合のいい女として扱いたいのであれば、許しがたい。
当然彼女も同じだった。
その男性は自分の名刺を渡して改めて自己紹介し、その場は終わったそうだ。
この独身男性とはそれまでもよく話をしていて、「直感で」悪い人ではないと思い、気安く笑い合っていたという。
男性は次の会で現れた彼女にすぐ声をかけ、そのときに
「熱心で人のためによく動く女性だと思った。
できれば、もっと親しくなりたい」
と、これまで見てきた彼女の様子について語った。
「私、メイクしてないのよ? その人、私のメイクをしていない顔しか知らないの。
しかもダッサい格好で行くただのオバサンだし、本当にどこがいいのかまったくわからない」
何を言われても、それが自分のこととは思えなかった。
これが彼女の本心で、目の前で緊張しながら話してくれる男性の姿に何も感じなかったそうだ。
そのとき、調停で伝えられる夫の不誠実な様子にとことんメンタルをやられていた彼女は、「貶められる自分」に囚われていたと思う。
そこは彼女が息抜きのためにみずから選んだ場所で、恋愛やら結婚やらをまったく意識しないから楽にいられるのであって、そこにいきなり登場した「自分を認めてくれる男性」に警戒心しか湧かないのはよくわかる。
私に話すのも、この人のことをどうしようではなく、彼女の悩みは「もうここに行くのはやめたほうがいいのかな」という、つながりをいっさい断ち切ることについての相談だった。
この男性は、彼女の状態について考えていない。
まずそう思った。
離婚調停や裁判は、はっきり言って経験した人にしかそのつらさや大変さはわからないと思っている。
「調停の前の日は眠れない」
「動悸がひどくて頓服を飲んでやっと運転して裁判所に向かう」
「気が重くて食欲がない、書面を準備するのも億劫になる」
これが現実で、先の見えない不安や結果に怯える気持ちをずっと抱えて過ごすのは、見ていて本当に胸が詰まる。
そんななかで口説かれても、心が動くはずがない。
「好意はありがたいけれど、今は向き合うエネルギーがない」
と彼女は男性に返していたけれど、もっと言えば
「そっとしておいて欲しい」
が正直なところで、それまでいい関係でいたからこそ、壊したくない思いもある。
その男性の様子を尋ねたら、無理にLINEのIDを聞くこともしないし、住所や仕事についても詮索してこない、彼女をひとりの女性として尊重しているのはわかった。
「力になりたい」はきっと本心なのだろうなと思うが、そんな自分が彼女にどう受け止められるかまでは、想像していない。
自分が彼女にとって「新しい負担」になる。
彼女は何も求めていない、むしろ”ご新規さん”などプレッシャーになるだけで、いま必要なのはただ心の安息なのだ。
これを聞いた別の女友達は、
「身元もしっかりしていてちゃんとした男性なら、甘えてみればいいじゃない」
と気軽に返したそうだ。
一緒にいた既婚の男友達からは
「俺だったら、そういうややこしい事情がある人にはあえて近づかないけど、離婚が前提だから声をかけたんでしょ。
たぶん純粋に好きなんだと思うし、とりあえずお友達でいいんじゃない?」
とも言われていて、そういう道もあるな、と彼女は思ったそうだ。
私自身は、
「自分が第一だからね、無理をしてまで心を開く必要はないし、正直に今の状態を話して距離を置いてもらうのがいいかもね」
と答えていた。
彼女はもともと生真面目な性格で、中途半端なお付き合いなどしたことがなく、性別に関わらず自分が好きな人にはまっすぐ好意を伝えていく素直さと行動力がある。
そういう面をその男性も感じ取っていて、だから好きになったのだと思うけれど、彼女にとって「甘える」ことにエネルギーがいるのだとはわからないだろうなぁ。
もちろん、調停中であっても彼女はいまだ既婚者であり、いたずらに異性と関係を持つのはいいことではない。
明らかに夫婦関係は破綻していると判断されても、彼女自身がそんな自分で交際することをよしとできなければ、誰であっても「新しい負担」になる。
難しいよねぇ、離婚後ならまた違う展開になるんだろうけど。
彼女が「貶められる自分」に苦しんでいるのは知っていた。
だから、独身男性が現れたことは彼女にとって救いになるかも、と思ったこともある。
だが、これを話したとき、彼女は
「私が自分で意識した人なら、たぶん努力はするんだと思う。やっぱり。
でも、好かれたから好きになるのって、難しくない?
あの人が真剣に考えてくれるのならなおさら、それをきちんと受け止められない自分に落ち込む」
と、きっぱり返した。
彼女にとって「救いになる」のは、自分を選んでくれた人ではなく、自分の気持ちが動いた人に限られるのだな、と痛感した。
つらいときにこんな男性が現れて、好意に乗っかるのが悪いとは決して思わない。
甘えられるのなら、そんな自分を相手に許してもらえるのなら、安らいだっていいだろうと思う。
手を伸ばしてくれる人の気持ちはありがたいし、問題がない人なら拒絶する必要もない。
それができる女性もいる一方で、安易に受け取ることをためらう場合もある。
「あの人が真剣に考えてくれるのならなおさら、それをきちんと受け止められない自分に落ち込む」
これが彼女の本音であって、慎重なのではない、ただ自信を失っているのだ。
だから、「もうここには行かないほうがいいのかな」と、せっかく掴んだ居場所でもみずから手放そうと考えてしまう。
異性とまともに関われる自分が、今はいない。
それは彼女にしかわからない苦しみや葛藤で、他者からの愛情が常に救いになるとは限らない。
その現実を彼女がどう受け止めたか、何よりまず早く離婚が成立してほしい、と心から思う。
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